さくら横ちょう

再会という単語はとにかくロマンチックに響いて、多くの人が一笑に付すような「運命の再会」なんてものにも、一抹の期待を寄せてしまうようなことがあります。

まだ暑かったときの話です。ずっと一目惚れなんてありえない、中身を知らなきゃ人を好きになんてなれないと豪語していた私が、出会って、いや、厳密には挨拶を交わしてから30分も経たないうちに恋に落ちました。

相手とは同じ電車に乗っていて、会話をしながら「一番初めに恋に”落ちる”という動詞をあてはめた人は天才だ、本当に”落ちた”わ、そういえば英語もfall in loveだなぁ」などと考えている間に、いつもの3倍の速さで電車は目的地に着いてしまいました。

電車から降りる直前、相手の連絡先を聞きたい、という下心が頭をもたげたのですが、自分への自信のなさがその下心を遥かに上回り、私は何も言わず手だけひらひらとさせて電車を降りました。そしてホームから、遠ざかっていく電車を眺めながら、あともう少し可愛かったら、肌の調子が良かったら、メイクがうまくいっていたら、「あの、連絡先教えてください」と言えただろうか、と考えて、自分の馬鹿さに呆れて思わず笑ってしまいました。

それ以来、同じ路線の電車に乗る度にキョロキョロして、もしかしてまた会えたりしないかしらと少し期待して、その度にそんな上手くいくわけないわと自分を慰めて、を繰り返していて本当に馬鹿だと思います。でも、もしあそこでみっともなさなんて構わずに声を掛けていたら?ひょっとしたらもう一度会えて、三流の恋愛映画のような物語を作れたのかもしれないと思うと、その物語の中で笑っている私に、自信が持てなくて、勇気が出せなくてごめんね、と謝りたくなります。一時の恥に負けて、あなたを幸せから遠ざけてしまってごめんね、と。再会できたってそんな上手くはいかないのはわかっています。仮に会えたとしても私はきっと自分の憧れるものに引け目を感じて、後ずさりしてしまうでしょう。

夏は終わって、短い秋も過ぎて冬になり、あと数時間で2016年最後の一ヶ月が始まります。いつまでも一夏の思い出を引きずっていてもよくないと思って、供養のつもりで書きました。明日は美容院に行って髪を切る予定です。髪が短くなっても、きっと電車に乗る時にはキョロキョロしてしまうでしょうが、もし次に眩しいところにぶつかったら、その時は自分から歩み寄っていけるようにしたいな、と思っています。