学校は都内にあるため、平日は大抵2回ずつ満員電車に揺られている。
時間によっては空いている時もあるけれど、朝と夕方5時以降はほぼ鮨詰め状態。
世にはばかる憎まれっ子東京の中でも特に嫌われる満員電車、たしかにこれからの季節は鮨というか冷凍の焼売みたいに蒸されて不快だけど、楽なこともある。
身体が触れ合っているからせめて意識だけは、とそれぞれ自分の世界に没頭して他人を意図して無視している。
スマホに、文庫本に、新聞に集中させた視線、もしくは耳に突っ込んだイヤフォンに集中して閉じられた目は、他人に向けられることは滅多にない。
だから、電車の中でぱくぱく口を動かして歌っても、ぽろっと涙を流しても、案外気づかれないのだ。
この「自分は確実に世界の端役だぞ」感は、見られることを意識する機会が多い毎日の中で身体の窮屈さと引き換えに手に入れられる小さな憩いだったりする。
電車の中ですべて嫌になって泣いて、美味しいものを食べてにこにこして、自分でも自分が分からない。けどきっと食べ物のことで笑える間はまだまだ大丈夫なんだろうな。