潜れど潜れどそこは

小さい頃の夢は忍者だった。その次は魔法使いになりたかった。魔女の宅急便を見ては魔女に憧れ、リトル・マーメイドを見ては人魚に憧れ、SPECを見てはスペックホルダーに憧れてきたけれど、結局平日は毎日満員電車に揺られて、上司の悪口を言いながら働く普通の会社員になった。

音楽も小説も詩もわたしを救うけど、たまにそれらは(私の精神状態次第で)鋭く冷たい刃を突きつけてくる。わたしはやっぱりどこまで行っても普通の人で、なりたかった「何かを持つ人」にはなれないんだ、という現実を。

空飛ぶほうきや美しい尾ひれ、時間の進みを遅らせる能力がないのはまだ分かる。
でも上手に歌が歌えるだとか、心を動かす文章を書けるだとかは、自分から距離が近いだけにどうしても憧れてしまう。ともすれば手に入るんじゃなかろうかとまで思ったりしてしまうけれど、プロと言われる人たちを見ると、やっぱり普通じゃないのだ。努力の仕方も、かける時間も、それのために捨てたものの多さも、そしてその仕事をしている時の輝きも。

もしアラジンの魔法のランプが手に入ったとして、わたしは何を願うだろうとこの前ぼんやり考えたとき、最初に思い浮かんだのが「天職を教えてほしい」だった。でも、きっと、何をやっても三日坊主のわたしの天職は会社員なのだろう。会社員は会社員でも、何の肩書きもない普通のサラリーマン。

ずっと肩書きがほしかった。私はこういう人間です、って言える何か。でもね、ここまで生きてきてようやく分かってきたけれど、わたしはひどく普通で死ぬほど特徴がない。だからこそ普通じゃない何かに憧れていたのかもしれない。変わってるね、も面白いね、もわたしにとっては褒め言葉だった。

天職がサラリーマンならば、もうスーパーサラリーマンになるほかない。正直つまんねぇなと思わない気持ちはゼロではないけど、仕方ないのだ。土日は誰かの作ったもので楽しんで、適当にお酒を飲んでストレスを発散して、平日は粛々と働くしかない。そして三連休が終わります。